らいおんの瓶の中

手紙を海に流すように、いろいろな感想とか。

『自動人形の城』

自動人形の城(オートマトンの城) - 東京大学出版会

 本編は中世ヨーロッパ風の王国を舞台にしたファンタジーで、巻末の解説で、人工知能が人間の言葉による指示を理解して実行するときどういう困難があるのか、本編に例をとって説明している。

シンプルにお話自体がおもしろかったです。

 

※以下、ストーリーの核心部分には触れていませんがそこそこネタバレを含みます

 

ストーリーがテンポよく進行して、あちこちに張られた伏線が最後にきれいに回収される。すごい残酷なエピソードもあってびっくりしたけど……。特にカッテリーナは、肉体的にも精神的にも外傷を負って完全に癒えることはないのかもと思うと苦しかったけど、筆者自身をモデルにしたキャラクターだと知って、きっと自分の性質とつきあいながら自分の人生を生きていけるんだろうなちょっと救われた。

王子が、過去のトラウマからわがままで自分に向き合えない子になってしまったが本当は優秀だったのでめきめきと育った、というところに関しては、人間ってやる気出せばそんなにすぐにすごくなれるものかなとも思ったけど、わたし自身は才能というものがどの程度先天性でどの程度後天性で環境にどのくらいどう左右されるのか全然詳しくないしわかってないし、この場合は自分とみんなの命がかかっていたわけだしな……とも思う。

 

肝心の、人工知能による自然言語処理については「そうだろうなあ」という感じだったけど()、状況が限定されれば人工知能でもうまく対応できるというのはなるほどと思った。作中の自動人形はもともと戦争用に生み出されたため戦いに必要な行為であれば簡単な指示でも複雑な動作ができるとか、解説2-9で例示された接客ロボットとか。

※ これは、わたし自身がものを書くことにこだわりがあって、書かれてある文章から読み手がどこまで把握できてどんな文脈を構築するかとか、どんな順序でどれくらいの情報を出せばどういう効果を与えられるかというのに常に関心を払っているからかもしれない。あるいはわたしが文脈を把握するのが苦手で、何についての話題なのかとか主語は何なのかとか過去に実際にあった話をしているのか願望の話なのかというのを省略されるとわからなくなってしまうのが、実感をもって理解できるからかもしれない。

同じ自動人形にいろいろな場面に対応してほしければ、「掃除モード」「接客モード」みたいに状況を幾つか設定して、状況ごとに適切な順位づけを教えたほうがいいのかも……?

あと、料理も、作中で鍋のかき混ぜ方を自動人形に教え込んだように「『パンを焼いて』と言ったら以下の手順を遂行して」と言ってパンの焼き方を一度細かく(カッテリーナのメモ並みに)ぜんぶ教え込めば、(美味しいものが作れるかはともかく)食べられるものを作ることはできるようになるかもしれないけど、物の置き場所や食材の残量が度々変わってしまう人間用の台所で一緒に作業するよりも、お料理専用マシンがマシン用の設備で作ったほうが、安全かつ適切に料理してくれそうだなと思う。